勝手な決めつけ

 この世の勝手な決めつけ史上一番迷惑な決めつけ、それは私が小学1年生の時にした、「この先生は殺人を犯している」かもしれない。ちんちくりんの田舎の児童に嫌すぎる断定をされるという被害に遭ったその先生は推定30代前半の中学校の男性教諭だった。私の地元は毎年新任の教師が「ここへの道中、最初にすれ違ったのが人ではなく猿でした」と、ひとボケする、いずれ消滅するんだろうなという人口の少ない村で、小中一貫校であったので行事をやる際などは中学の先生とも交流があったのである。運悪く地区会の担当教師が殺人犯になってしまった私は、ある日その先生と会が行われる教室へと2人きりで歩いていた。私と殺人犯以外誰もいない廊下、私も殺されるのではないか。可能な限り距離をとろうと壁に肩を密着させながら歩いていた。今思えば、小学1年生の私からしたら中学生も立派な大人であり、その人達を統率しているという得体の知れなさ、それに加え人相がやや悪い、スーツを着ている、整髪料つけ過ぎ、という細かな情報が私の未発達な脳みそに入り込み、ぽんっと導き出した答えが
“This guy is a murderer”だったのかもしれない。気を遣って話しかけてくれる殺人犯に愛想笑いを浮かべながら私の肩はますます壁と一体化していった。なんとか教室に到着したものの、地区の児童生徒は私を含め2人。とてもじゃないが太刀打ちできない。さあ会が始まるかというところで殺人犯はカーテンを閉めた。日光が強すぎるという理由からのありがたい心配りだったのだが私は絶望した。目撃者を0にしようとしている。カーテンを閉める犯人の力強い腕からは誰にも証言させるものかという気概が感じられた。私の人生、もはやここまで、記憶はそこで途絶えている。

 なぜ私がそこまで強く先生を殺人犯だと信じ怯えていたのかはよくわからない。どうもすみませんでした。